その猫は、いつも高いところにいた。 場所はとある街の駐輪場。タイル張りの壁に取りつけられた金属の一輪車の上、まるで空中を見渡すように、猫の姿があった。

名前は「トツカ」。
誰が呼び始めたのかはわからない。でも、みんながそう呼ぶようになった。トツカは、毎朝通勤や通学に向かう人々を、じっと見守っている。無言だけれど、どこか誇らしげで、ちょっとお茶目なその姿に、思わず笑みがこぼれる。
「今日も安全運転でにゃ」
「鍵、ちゃんとかけたかにゃ?」
そんな声が聞こえてきそうな気がする。
トツカのまわりには、くるりと曲がった金属のラインが、風のように舞っている。よく見ると、それは文字だった。「戸塚自転車駐車場」と、空に浮かぶように描かれている。
その文字たちは、ただの案内ではない。曲線は猫のしっぽのようにしなやかで、直線は自転車のフレームのように凛としている。まるで街の空気に溶け込んだ詩のように、トツカの居場所をやさしく包み込んでいた。
駐輪場の守り猫
トツカは、ただの飾りじゃない。
ある日、急いでいた学生が自転車の鍵をかけ忘れて走り去ろうとしたとき、ふとトツカの目が合った。なぜか胸騒ぎがして、振り返ると、鍵がそのままだった。
「助かった…!」
それ以来、その学生は毎朝トツカに「行ってきます」と声をかけるようになった。
猫の日に、空を見上げて
2月22日、猫の日。
今日は少しだけ早起きして、駐輪場に立ち寄った。トツカは変わらず、空を見上げるように一輪車の上に座っていた。朝日が金属の体に反射して、まるで光の羽をまとっているようだった。
その背後に広がる金属の文字たちも、朝の光を受けてきらりと輝いていた。まるでトツカの存在を祝福するように、静かに、でも確かにそこにあった。
「猫の日、おめでとう。今日もよろしくね」
そうつぶやくと、風がふわりと吹いて、どこからか「にゃあん」と聞こえた気がした。
撮影日 2025年月日